無口な彼が残業する理由 新装版

一人だと思うと、急に気が抜けた。

ゴチャゴチャしているのに静かな事務所の空気が重くのし掛かる。

私はその空気に負け、軽く椅子を引いて机に頭を乗せた。

蛍光灯に照らされた事務所が90度傾く。

いつもと違って見えて、少しだけ落ち着いた。

しばらくじっとしていると傾いた光景が滲み出した。

左目から耳にかけて、生暖かい滴がポロリ。

そしたら右目からもポロっと出て、

鼻を通過したそれが左目に入ってまたポロリ。

勢いがつくと止まらなくなってきた。

私は空気を掻き分け体を起こして近くにあっティッシュを3枚抜き取って、そっと目頭に当てた。

「グスッ……」

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