無口な彼が残業する理由 新装版

丸山くんは私の目の前まで来て、

大きな手で軽く頭を撫でた。

その瞬間、ぶわりと視界が歪んだ。

頭皮から伝わる温もりが胸に沁みたのだ。

「泣きたい時は、泣けば?」

涙腺、崩壊。

私は目を両手で覆った。

まるで水道の蛇口を全開にしたように涙が溢れる。

すぐに鼻も詰まり、子供のような嗚咽まで漏れる。

丸山くんは新しいティッシュを取ってくれて、

覆った手から漏れた涙を拭ってくれた。

そっとティッシュを受け取る。

丸山くんはその時の顔も無表情だったけど

どことなく優しい感じがした。



ずるいよ、丸山くん。

私ばっかり嫌なとこ見られて、

私ばっかり良いとこ見せられて。

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