無口な彼が残業する理由 新装版

カコッと音がして、開封された缶が差し出される。

私のために買ってきてくれたらしい。

「ありがとう」

感謝の気持ちが好きの気持ちと混ざって心地良い程度に苦しくなった。

「別に」

丸山くんがくれたホットミルクティーはもうすっかり冷めてしまっていた。

丸山くんが飲んでいるコーヒーだってきっと冷めているのだろう。

せっかくホットで買ったのに、ごめんね。

外は大雨で、風も強い。

まだ春なのに台風のよう。

こんな天気の日はより一層人の優しさが身に沁みる。

「あーあー。泣きすぎて酷い顔してる」

ポーチから取り出した鏡を見ると、

マスカラとアイラインが滲んで

更にファンデーションの取れかけたみすぼらしい顔が映った。

「確かに」

コーヒー片手に真顔で指摘する丸山くん。

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