無口な彼が残業する理由 新装版
「帰れば?」
……そうなりますか。
「雨も酷いし」
……顔も酷いですもんね。
「そうだね。そうしようかな」
私はポーチをバッグにしまい、ミルクティーを一気に流し込む。
丸山くんって、やっぱり無愛想だ。
デスクを片付けて帰宅の準備を終えると
丸山くんも準備を終えて待ってくれていた。
一緒に帰ってくれるんだ。
落ちていた気分が一気に上がる。
「送ってく」
「ええっ? そんな、いいよ」
いや、それはかなり嬉しいけど。
散々甘えてしまったのに、これ以上甘えてしまうわけには……
「傘、ないでしょ」
「……あ」
例によって寝坊してしまった私は、
天気予報を見ずに出社した。
でも、でもね。
そんな私の自分の癖をわかっているから、
私のバッグにはいつも折り畳み傘を忍ばせてある。
私、欲深いのかな。
さっき丸山くんが胸を貸してくれたから
ぎゅっと抱き締めてくれたから。
もっともっと、距離を縮めたい。