無口な彼が残業する理由 新装版

駅に到着すると、丸山くんの肩は少し濡れてしまっていた。

そりゃそうだ。

雨はさることながら風もそこそこ強かった。

「ああっ、ごめんね。私のせいで」

「別に」

丸山くんは何ともない、といった感じに手で肩を払った。

少しだけ滴が散ったけれど、多くは染みてしまっている。

「ほんと、ありがとう」

「別に」

やっぱり無口で無表情で無愛想だけど、

本当は優しい丸山くん。

「どこ駅?」

「え?」

「家」

最寄りの駅名を言うと、

「行こう」

とそっち方面のホームに向かおうとする。

送るって、まさか。

わざわざ家まで?

「丸山くん、さすがにそこまでは……」

申し訳ないよ。

ホントは傘だってあるんだし。

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