無口な彼が残業する理由 新装版
電車を降りて、改札を出て。
南口から駅を出る。
階段を降りて屋根がなくなったところで
再び傘が開く。
微妙な距離を保っていた丸山くんを見上げれば、
「おいで」
と言われているような気がした。
引き込まれるように寄り添えば
私の歩幅に合わせて歩いてくれる。
「今やってるシャンプーのキャンペーンなんだけどさぁ」
間を持たせるための下らない話にも
「うん」
とか
「ああ」
と相槌を打ってくれて。
ゆっくり歩いていたつもりだけど
あっという間に自宅アパート前にたどり着いた。