無口な彼が残業する理由 新装版
「うち、ここなんだ」
「そう」
見上げるように7階建てのアパートを眺める丸山くん。
寄ってく?
と言いたいところだけど、時間が時間だけに無理がある。
「今日はほんとに、何から何までありがとう」
「いや、俺は、別に」
「今度、お礼させて」
「いいよ、別に」
別に、が口癖になっている丸山くん。
左肩がさっきより濡れている。
「ミルクティー何本かご馳走になってるし、それじゃ気が済まないもん」
丸山くんは少し驚いたように目を開いた。
綺麗な二重まぶたの目が、狭い傘の中でより大きく見える。