無口な彼が残業する理由 新装版
丸山くんは放心する私を建物のエントランスまで誘導してから、
「また明日」
と言って去っていった。
何? 今の。
丸山くん、笑ってた。
すっごく可愛い顔をして笑ってた。
いやいや、そうじゃなくて。
笑った顔はやっぱり私の心を撃ち抜いたとか、
そういうことじゃなくて。
キス、した。
丸山くんが私に、チューした。
理解すると、急にドックンドックン血が巡り出す。
視界が揺れるほど、強く。
息が苦しくなるほど、速く。
私はその鼓動が治まるまで、
しばらくその場から動けなかった。