無口な彼が残業する理由 新装版
「――……か」
丸山くん、コーヒー飲んだ。
「――みさか」
キーボード打つの、速いな。
「おい、神坂!」
体を揺らされて、やっと我に帰った。
パチパチ瞬きをすると、そこにはこの事業部でもう一人の同期、
青木達也(あおき たつや)が立っていた。
「お前、どうした?」
怪訝の表情で顔を覗いてくる。
「青木……」
「なに?」
私は胸の奥から込み上げてきた感情をもて余して
何も考えずに口から出してしまった。
「恋に落ちたかも」
無口で無表情で無愛想。
だけど少し優しい、あの人に。