無口な彼が残業する理由 新装版
なんだか全てが青木に支配されているような気がして余計にムカついてきた。
トイレに逃げ込んで服にかかってしまったコーヒーのシミを落とす。
同時に乱れまくっている心を落ち着ける。
濡らした布巾でトントン叩いても
シミはなかなか最後までは落ちてはくれなかった。
「シミ、落ちたぁ?」
後ろから声をかけられて鏡越しに後方を確認すると、
大きなキュービックジルコニアの一粒ピアスを輝かせる菊池さんだった。
「大体は落ちたんですけど、全部は落ちてくれなくて」
菊池さんはそうだよね、と笑いながら私の背中を軽く叩く。
「どうしたのよ、あんた。朝丸山に変なこと言われた?」
菊池さんは私と丸山くんが二人で事務所を抜けたことに気付いていたらしい。
「丸山くん、無口だし。ほとんど何も言ってくれませんよ」
青木のこと以外は、ね。