甘恋集め
「結構、来てるかな。バイトに間に合わない時は泣く泣く諦めるけど」

「泣く泣く、ってどれだけこの場所が好きなんだよ」

くくくっと肩を揺らして笑うと、目の前の男の子はおかしそうな表情のままで私の隣に腰かけた。

それほど大きくもないベンチに二人並ぶと、たちまち窮屈に感じる。

私の右腕に触れる、彼のグレーのパーカー越しに感じる体温に、私の体温も一気に上がった気がする。

こんなに男の子の近くにいるなんて、滅多にないせいか、必要以上にどぎまぎとしてしまう。

おまけに視線だってうまく定まらなくて、落ち着きなく動く。

本当に、男の子に慣れてない。

膝の上の両手をぎゅっと結んで、自分の舞い上がった気持ちを落ち着かせようと眼下の景色に再び視線を向けた。

「緑って言ってたけど、もしかしてあの緑の屋根を見てるわけ?」

隣の男の子は、まさに私が夢中で見ている緑色の屋根を指さした。

「うん。目立つからすぐにわかるよね」

「そうだな。こんなに目立ってるなんて知らなかったな」

街並みに溶け込むというより、周囲に広がる茶色やグレーに近い色とは異質な緑。

その色は遠目から見てもかなり目立つ。

あの家を建てた人は、目立つ屋根になる事をあらかじめ承知で、敢えてあの緑を選んだのかどうか。

それとも、何も考えてなかったのか。

あの屋根に気づいて、私自身が出してみたい色合いであるあの緑色にのめりこんで以来、何度か考えた。

けれど、その真実に触れることはまずないから、勝手にいろいろと想像して楽しんでる。
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