甘恋集め
私が働く『KH建設』秘書課。
総勢十二人の秘書が忙しく働いている。
秘書というと、女性を浮かべる人が多いけれど、わが社の秘書課には、五人の男性がいて、この五人が課内をとりまとめている。
役員専属の秘書というのは、厳密には社長のみ。
専務や常務にすら、個人的な秘書はついていない。
基本的に、自分の仕事は自分で。がモットーの社風は、役員にも行き届いていて、秘書イコール役員のお世話という図式はここでは通用しない。
単なるお飾りの秘書ならいらないって事だ。
「東条専務、今日の会議の議事録見ましたけど、発言が全くなかったですよ。
もしかして、また、寝てましたか?」
大きな声が聞こえた。
視線を右に向けると、私と同期の美乃ちゃんが、専務の行く手を塞ぐように立っている。
手にしているのは、さっき私ももらった議事録だ。
「今日の会議では設計部からの提案で、他社との勉強会の回数を増やしたり、コンクール対策のための勉強会を強化するだとか、結構大切な事があがってたのに、寝てたんですか?」
詰め寄る美乃ちゃん、後ずさる専務。
見慣れた光景に、誰も口を挟まない。通常業務続行中だ。