甘恋集め

会社から歩いてすぐのカフェ。

私と美乃ちゃんのお気に入りで、週に三日はランチを食べに来ている。

白を基調とした店内は明るくて、お昼休みの癒しにはもってこいの場所。

ハーブティも充実しているせいか、女性の客が多いのもポイントだ。

「としくん、ランチ二つねー」

美乃ちゃんは、お店に入ると同時に、カウンターの向こうにいる男性に声をかけた。

『としくん』は、その声に振り向くと、くすっと笑って。

「はいはい。ホットでいいのかな?」

「うん。私はホット。結花は?」

「あ、私も、ホットで……」

いつものように、そう答えた。

『としくん』

このカフェのオーナーの利也さんの事を、美乃ちゃんはそう呼んでいる。

長身で、すっきりと整った顔はどちらかというと冷たい印象を与えるけれど、美乃ちゃんに向ける顔は、とても優しくてほっとする笑顔だ。

時々見せてくれる、温かい笑顔を気に入った女性客も結構いるらしく、密かにファンも多いらしい。

あっさりとそういう美乃ちゃんは、そんな女性客の事を気にする様子もなく、自分には関係ないとでもいうように、いつも平然と寛いでいる。

私なら、気になって気になって仕方ないと思うけど、美乃ちゃんには自信があるのかな。

自分に向けられる利也さんの笑顔を信じて、嫉妬なんて、しないのかな。

仕事とはいえ、他の女性から甘い視線を向けられるなんて、私なら、耐えられないかも。

自分の婚約者が、女性に人気があるなんて、泣きたくなると思う。



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