甘恋集め

その日の仕事をどうにか終えて、そろそろ帰ろうとしている時突然声をかけられた。

「高橋専務のスケジュールがわかる人いる?」

振り返ると、慣れない秘書課に来て、居心地悪そうにそわそわしている同期がいた。

「園田くん、秘書課に来るなんて珍しいね。……で、高橋専務のスケジュールが欲しいの?」

「ああ、明日空いてる時間があったら、打ち合わせに顔出して欲しいんだけどなあ」

「ふーん。システム関係の事?」

「そう。日向システムの人が明日来るんだけど、高橋専務に挨拶したいって言ってて。……どうだろ、空いてる?」

「ちょっと待ってね。今確認する」

パソコンに向かって、役員のスケジュールの画面を呼び出す。

「ここからは課外秘情報だから、あっち行ってて。スケジュールわかったら声かけるから」

「あ、ああ悪い」

役員のスケジュールも、公にはしていない。

個人的に秘書を持たない役員だけど、スケジュールだけは細かく秘書が管理している。そうでなければ会議の日程一つ組む事ができない。

基本的に現場が大好きな人が多いせいか、社内にいるよりも外に出たっきりという役員も珍しくない。

『必ず会議までには戻ってきてくださいよ』

電話で怒るのも、秘書の大事な仕事だったりする。

パソコンの画面に、高橋専務の予定が出た。

確認すると、明日の午前中なら空いているようだ。

これ幸いと現場に行かなければ、だけど。

園田くんに伝えようと振り返ると、美乃と二人で笑い合ってる姿が目に入った。

同期だから仲がいいのはわかるけど、二人見つめ合う瞳や、時々触れ合う体からは、単なる同期以上に近い距離を感じた。



< 39 / 207 >

この作品をシェア

pagetop