甘恋集め
秘書課に配属されて以来、どうも調子がいい。相性がいいんだ。
配属前は、秘書課というイメージにとらわれ過ぎていたのか、女性の意地の悪さが凝縮された檻を想像して憂鬱だった。
けれど、入社後しばらくの間研修を受けた後に連れて来られた秘書課には、予想を裏切る大声が飛び交っていた。
翌日海外の会社の視察があり、社長をはじめ役員皆大忙しで準備にあたっていた。
スーツの腕をまくって陣頭指揮をとっているのは、よく知っている高橋のおじさん。
いや、社長で。
『その模型は真ん中に置け、で、椅子の数は足りてるのか?通訳との打ち合わせは終わってるのか?』
周りに指示する様子は想像していた社長ではなかった。
椅子に座って余裕で構えてる人を想像していたのに。
おじさん、もっとどっしり構えなきゃ。
言葉もなく、秘書課の中で茫然と立ち尽くしていたのは私だけではなくて、私と一緒に秘書課に配属された同期、三村結花も同じように驚いていた。
『社長って、あんなに汗をかいて仕事するんだね』
ぽつりと呟いた彼女の言葉がツボにはまって、笑いをこらえるのに苦労した。
これが、私と結花の付き合いの始まりだった。