らくがき館
さりげなく
「あさみー早くー」
部室の外で一緒にマネージャーをしているえっちゃんが呼んでいて、私は急いで鞄を肩に掛け、入口で待っている菅原先輩の元へ急いだ。
「スミマセン、待たせて」
「ん、」
先輩は言葉少なに答えた。
部室の電気を消すと、菅原先輩はキャプテンから預かった鍵で部室を施錠する。
「……よし」
一応開かないかドアを揺らして確認。
行きましょうか、と先輩を見上げると、同時に菅原先輩の顔が近付いてきて、唇に一瞬の温もり。
「行くか」
そして菅原先輩は何事もなかったように、でもさりげなく私の左手を取り歩きだした。
部室は校舎側に入口が着いているからえっちゃんとキャプテンの居る場所は死角になっていた。
「……………。」
さりげなさすぎるんですけど。
私は空いている右手で少し熱くなった耳に触れた。
201202
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