らくがき館
男が二人で海に行く訳
「何が悲しくて男二人で海になんて行かなきゃなんねーんだよ」


 助手席で煙草を吹かしながら悪態をつく健。
 はは、とハンドルを握りながら宥める俺。


「たまにはいいだろ」
「友美と来ればいいのに」
「健と来たかったんだよ」


 視線は正面に向けながら本心を告げると、視界の端で健が反射的にこちらを見て一回むせた。


「ごめん俺お前の気持ちには応えられないから」
「つれねーの」
「きめー」


 そういいながら、耳まで赤くした健を容易に想像する。
 健も俺の考えていることがわかったのか、小さく舌打ちをした。



 それからしばらく、静かに風を感じながら車を走らせる。
 健は何も喋らなかった。
 ただ、全開にした窓にもたれて煙を燻らせている。
 途中、二箱目を開けた。









 季節外れの海は人気(ひとけ)がない。
 ドアを開けると、強風で砂が舞い、とてもじゃないが砂浜を歩くどころではない。
 仕方なく、車の傍で水平線を眺めた。

 太陽は高くない。
 だけど沈むにはまだ早い。
 その残念な時間が、なんだか丁度いい気がする。


「健」
「あん?」
「……俺、健がすごく好きだよ」


 今度はしっかりと顔を見て、告げる。
 目が合って、それから、健は柔らかくそれを反らした。


「だから、応えらんねー、って」


 唇の端を、切なく持ち上げる。


「哲、」
「……。」


 男二人でここに来た意味。
 誘ったのは俺だけど、健も、そのことを考えているだろう。


「友美が好きだ」


 健が顔を上げる。
 今度は真っ直ぐに、俺を捉えた。


 考えていることなんてとっくに知っていたけれど、それでも、健は敢えてそれを口にした。


「ずっと好きだった」
「うん」
「つーか、今でも好き」
「うん」
「あんないい女、いない」
「いっつも喧嘩ばっかなくせに」


 健は眉間に皺を作る。
 俺はふっ、と苦笑した。


「ぜってー幸せにしろよ」
「言われなくてもするつもり」


 健は目を擦り、聞いてもいないのに砂が入ったと言った。

 健の耳はやっぱり赤かった。



20120222


もっと詰め込みたかったけど盛りだくさん過ぎた。
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