らくがき館
生愛-きあい-
身体は気だるかったのに、頭は妙に冴えていた。
「眠れませんか」
声に呼ばれ、隣を見遣る。
「起きていたのか」
お互い、お互いの問いには答えない。
代わりに彼女は白く輝く肌を寄せ、私はその肩を抱いた。
「何を考えているのですか?」
「うん」
唇を開きかけ、苦笑を溢す。
私の腕の上で首を傾ける彼女。
「色々とね」
溜め息のように、独り言のように呟く。
色んなことが浮かんでは消え、消えては浮かんでいた。
今までの思い出。
私がいなくなってからの未来。
だけれど、こんなことを考えるのは無意味だと打ち消しては、また想いを馳せる。
「何かを残せたらと、最後にこうやって君と過ごすことを選んだけれど。先輩がね、言っていたんだ」
彼女に聞かせるというよりも、私自身が先輩のことを思い出すように、記憶をなぞる。
「男は死が近付くと女を求める。それは本能であり愛だの恋だの綺麗事と違う」
高い声を少しだけ真似てみる。
小柄で、生真面目な人だった。
「私が今、君をどうしようもなく愛しいと思うのは、明日死ぬからかもな」
最後の夜。
もっと囁くべき言葉があっただろうが、結局出たのはなんの色気もない話だった。
彼女に申し訳ないと思った。
しかし彼女は笑みを浮かべた。
「良いではありませんか」
「え」
「良いではありませんか、綺麗事でも戯れ事でも。私は、貴方の子をもうけたいと思っています」
薄っぺらい手を私の胸に滑らせる。
「貴方が生きた証を、残していけるなら、それが愛でなくても私は構いません」
死が怖いとは、いつからか考えなくなっていた。
それが強くなったのか諦めなのか麻痺なのかはわからないが、守る為に自分が犠牲になることだけは誇りたい。
ただひとつ心残りは、私と彼女の子を見たかったということ。
子が成長し、得意の乗馬を一緒にやりたかった。
私の腕が濡れたのを感じたが、私は気付かない振りをした。
「なぁ」
返事はない。
「だけど、私は君を愛しているよ」
20120223
イメージは戦時中。
前にもこういう風なの描いた気がするけど、ここじゃないからいいかな、と。
だけども不完全燃焼。
思ったように流れなかった。