らくがき館
アイズ-僕が見る世界-
パサパサの髪が無造作に伸びていた。
痩せた頬や折れそうな細い手足。
貧相な見掛けとは裏腹に、強い意思を持つ瞳は14歳から放つそれとは思えない程艶っぽかった。


「あんたも似たようなモンだよ」


生意気そうに流し目を向ける。


「随分痩せたね」


俺は腕を見た。
確かに骨が目立つようになった。
ここには鏡がない。
自分の姿を確認できるのは、バケツに張った揺れる水面だけだ。

此処に女はいるにはいるが、勿論化粧をするものはいないのだ。
一重でも、鼻が大きくても、そばかすがあっても、誰ひとり気にする人がいない。
比べられることがないからコンプレックスも持たないのだ。

そもそも、目が大きいことが可愛いなんて誰が決めた定義だろうか。

『外』で暮らしていたときのことが、あまりにも下らないと思ってしまう。


いい大学に行くために勉強をした。
お金はないよりあった方がいいに決まってる。
運動も、出来た方がいい。
親は、公務執行役員だった。


恵まれた方だという自覚があった。
少なくとも、劣勢組に回らないための努力をする環境と余裕があったのだから。

劣勢組が自己責任だという世論に矛盾さを感じてはいたけれど、それでもわざわざ自分がそうなる必要はない。
権利を放棄することに意味はない。


しかし、それ事態が、乗っていたその大地が、間違いだとしたら。


優劣いう『常識』それ事態がずれていたとしたら。


下らないと思っていた。
だけど、下らないと思っていたこと事態が下らなかったのだ。



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