らくがき館
相思相愛
「セバスって仲いいの?悪いの?」
今まさに売れっ子漫才コンビ、セバス・チャンの吉田と木川田に梶は質問を投げかけた。
カメラも回っていないのに、木川田は吉田の鳩尾に思い切りパンチを食らわせたからだ。
本気でうずくまる吉田が少し憐れだった。
「うん?仲良かったら漫才なんてでけへんよ」
木川田はサラリと言って、笑いながらヒラヒラと手を振った。
なぁ?と吉田が苦しむのもお構い無しに聞いている。
「……そんなん、誰が決めたルールやねん」
ようやく顔を上げた吉田の目には涙が浮かんでいる。
「『セントラル』とか『山田チキン』とかむっちゃ仲良いじゃないですか。仲悪い漫才コンビなんて古臭いですよ」
「あかん。コイツわかっとらん。だからバカ言うてるんや」
カメラが無くても漫才みたいな彼らを見て、梶はやっぱり仲がいいのか悪いのか首を傾げた。
「ねぇ梶くん、」
ヘタレ宜しく未だブツブツと文句を言っている吉田を置いて、木川田はビールのジョッキを持ち上げ、梶に話掛ける。
「漫才言うてもね、立派な仕事やねん。お客さんからお金も貰ってるし、テレビからも貰ってる」
頷く。
「確かにやりたくてやってて、出来なくなったら仕方ないって思いがちやけどね、そら仕事として考えたらどうなんかなぁって思うわけ。
つまり、喧嘩したとかでコンビ解消するなんて、お客にもスポンサーにもホンマに失礼な話やわ。つまらんしなぁ」
木川田はビールを一杯煽って、ガタイから考えたら意外だったが枝豆を両手で食べた。
「例えるならセバス・チャンっちゅう有限会社やねん。そんなん、私情持ち込むんは間違いやと、俺は思う。
タレントは商品言うやつもおるけど、ちゃうねん。米に意思がありますかっちゅー話や。
言うなら子会社や。給料も何もかも自分次第やし、まぁ、ある意味自由やねんなぁ、俺らは」