短編集


あのあとのあたしは、『いのりひめ』を読んでいる。


実はあのあと、新谷くんが貸してくれたのだ。

でも、完全に童話の世界に入り浸っていたあたしは、家に帰る頃までには読み終わっていた。


少し残念である。


書いてあった童話はすでに全部読んであったし、ほとんどは学校でいのりひめさんのコメントを読んできていたから、早く読み終わってしまっていた。


突然辞めた理由は書いてはいなくて、ただ、すみませんとたくさん書いてあった。


寂しいけれど、それがいのりひめさんの決断なら、あたしたち……ファンは、その決断を受け止めて、彼女の幸せを願うべきなのだと思った。


「ただいま〜」

「おかえり波那」


家に帰ると、台所で夕飯の支度をしているお母さん(宮崎祈姫(きひめ))がこっちを振り向いて、満面の笑み。


いつ見てもかわいい、自慢の母だ。


「聞いて聞いてお母さん!今日前に言ってた転校生と話したの!」

「おぉ!よかったね。どうだったの?新谷くんだっけ?」
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