短編集
「でも三年後……新たな出会いをした。それが、今のお父さん」
母は、違う恋をした。
きっと、その選択に未練は残ってない。
「……お父さんと出会ったから……書くのをやめたの……?」
「お父さんのこと、本当に大好きなの。でもね、一度愛を注いでしまった人に対して気持をなくすなんてことはできないの」
……気持ちは、消せない……。
過去は、無かったことには出来ない。
「私の過去は……想いはしまっておいて、いつかまた逢えた時に懐かしく思えるように…そうして、形に残した文章は捨てた」
その文章を娘のあたしが買い、新谷くんも持っていた。
「……明日、新谷くんに言ってもいい……かな?」
「大切な読者様をお悩みさせてしまっていたんだもの。ぜひ言ってちょうだい」
母は、いつもの優しい笑みを表した。
いのりひめの想いは、違う形ではあるけれど、まだ王子様に向いているんだね。
お母さん、幸せで苦しかったんだね。
話してくれてありがとう。