短編集
王子様
次の日、あたしは新谷くんに、祈姫と王紫さんのこと、童話を書くのをやめた理由も話した。
「……王紫?」
新谷くんがまっ先に反応したのは、『王紫』という名前にだった。
同じ苗字ということにに反応すると思っていたけど、意外。
「そう。王子に発音似てたから覚えてたんだけど」
そうあたしが言うと、新谷くんは考える素振りを見せた。
「僕は……小さい頃からこの童話を読んで育ったんだ。このいのりひめさんの童話だけで……。いのりひめさんの作品を大切にとっておいていたのは、父さんなんだ」
「……え?」
新谷くんの、お父さん……?
「その、父さんの名前が……」
──また、予感がした。
「新谷王紫。きっと本人だ。父さん、この童話の作者が祈姫さんだってこと、知ってたんだ」
──お母さんの想いは、ちゃんと伝わっていたんだ。