短編集
先輩は、美術部の面影を残しておきたかったのかもしれない。
「俺は絵が好きだ。違う部活には移らない。その気持ちは変わらないし、変える気もない」
先輩の『思い』は強かった。
「だから時々、こうして美術を続けているんだ」
そうだったんだ……。
美術部がなくなっても、美術の活動は続けてたんだ……。
先輩から伝わる、美術が大好きだという思いが、強く伝わってくる。
「今日もね、描く予定ではいたんだ。何を描こうか悩んでいて……未妃ちゃんを見て、あまりにも可愛い顔してるから、久しぶりに人を描きたい、君を描きたいって、思いつきのように思ったんだ」
「先輩……」
先輩の顔は、とてもうれしそうだった。
「じゃ、ここに座ってくれる?」
私が指定された場所に座ると、先輩は本当に幸せそうな顔をして絵を描き始めた。