短編集
「癒那、急に呼んじゃってごめんなさい。……秋和未妃は?」
「未妃ちゃんには美術室で待ってもらってるけど……早く行きたいかな」
あまり彼女を待たせたくない。
それに、早く彼女のもとへ行きたい。
「そう。じゃ、早速本題に入るけど、まずはこれを言わなきゃ話が始まらない」
そう言った彼女は、いつもの口調と変わらず、言った。
「あたし、癒那が好きだから」
突然ためらいもない言葉に、俺は一瞬固まってしまった。
いま、さらりと流してはいけないような発言をしたような気が……。
「す、すき?俺のこと……?」
「そうだよ。他に誰がいるの?」
その言い方は、いつもと一切変わりない亜綱そのもの。
独特な、強気な口調。
「あたしは癒那が好き。だからずっと癒那を見てた」
そんなこと、気付かなかった……。
確かに視界に入っていることくらいは理解していたけど、まさか亜綱が……。