短編集


先輩が、すごく緊張している。

その緊張が伝わって、私も緊張する……。


「未妃ちゃん」

「は、はいっ……」


あ、焦るな私……。

深呼吸、深呼吸……。


先輩に気付かれないくらいの、小さな深呼吸を数回繰り返した。

少し落ち着いた。


「俺、この絵描いてる時、すごく楽しかった。未妃ちゃんといる時間がとても幸せだったんだ」

「……はい」


私も、先輩と一緒にいられる時間は楽しくて、とても幸せでした。

その思いを……今は我慢して、先輩の言葉に耳を傾ける。


先輩は、大きく一つの深呼吸の後、言った。


「これからも、俺にこの幸せを与えてくれないかな?」

「……え?」


時が一瞬、止まったように感じた。
< 58 / 115 >

この作品をシェア

pagetop