短編集
「麻衣お嬢様のそのようなお顔を、見たくなかったからです」
眉に力が入ってしまう。
今のわたしはきっと、酷く寂しい顔をしているだろう。
笑っていられるはずがない。
部活の時間すら惜しむのに、国外だなんて。
「父にはもう話してあります。入学手続きも済んでいます」
「もう……何なのよ……」
「話しは以上です。帰りましょう、麻衣お嬢様」
いつの間にか迎えの車が来ていて、それに乗っていつものように返った。
「おかえりなさいませ、麻衣おじょう……お嬢様……?」
出迎えてくれた執事にかまわず、わたしはそのまま二階の自室に向かった。
「……泉」
「話した」
「そうか」
バタン、扉を締める。
鍵もかける。