摩天楼Devil
「ならいい」


――よくない。何が!?


「それより、グロスを変えるように言ったはずだが……」


「あ、忘れてました……だって、本当にまたキスするなんて」


思わなかったもん、と呟いた。


「俺はちゃんと、コンタクトにしただろ?」


「べ、別に約束したわけじゃ――」


篤志さんは眉間に皺を寄せるので、思わず素直に謝った。


「ごめんなさい……」
と頭を下げた。


「妃奈。いいから、顔を上げて」


思ったよりは、怒ってないのかなぁ、とちょっぴり安堵して、顔を上げた。


すると、篤志さんはまたくちづけをしてきた。


今度は、ちゅ、と軽く押し当てただけで、すぐ離れた。


「篤志さん?」


「次はあのドレスが着られるように用意しておいて。そうだな、オレンジ系の色がいいかもしれない」


と、すっかりグロスの落ちかけた、唇を撫でてきた。

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