摩天楼Devil
「……キスしないんですか?……今日は、私に……」


レイさんという、私とは正反対の美女が、聞いてしまった会話の内容から、元の恋人だと知ってしまった。


なぜ、現在はお兄さんの婚約者になっているのかは分からないけど、

そんな謎よりも、ショックの方が強かった。

嫉妬と重なって、私はおかしくなってしまったんだろうか。


「キス、しないの?」

と、続けて訊いた。


顔は見られず、視線はカップに向けたまま。


「したくない、って言ったのは妃奈だろ」


彼は指先で、ピアスを転がしてた。


その赤い色が、レイさんの唇を思い出させた。


「……し、くださ……い」


ある願いをしたが、小声すぎて聞こえなかったらしい。


「え?」


「き、キスして、ください……」


全身が震える。

なんてこと言ってしまったの? と早々と後悔した。


いますぐ、逃げ出したかった。


「君からそんなことをいうなんてな」

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