摩天楼Devil
やっぱり、何かあっただろ? と彼は問う。


「……」


私はただ黙って、恥ずかしさに耐える。


「おいで……せがむなら、ちゃんと顔見てお願いして」


ふいに肩を抱き寄せられる。

ただ、それ以上のことはしてこなかった。


自分から“ちゃんとお願い”してくるのを、待っているらしい。


私はできずに、床に視線を逃がしてた。


くす、と軽い笑い声がし、「冗談だよ」と彼は言った。


篤志さんは立ち上がり、机の前に移動した。

今日はコンタクトを入れてなかったらしく、メガネをかける。


そして、分厚い本を開いた。


その背を見ると、やけに寂しくなった。


「キスして……」


背中に頼む。

本人は驚いた顔で振り返った。


私は合った視線をそらさなかった。


彼はメガネを外した。

裸眼の視力はどのくらいか知らない。


でも、私のことは見えてるはず。


真剣な面持ちの男性が、隣に戻る。

< 155 / 316 >

この作品をシェア

pagetop