摩天楼Devil
迷ってると、篤志さんは、「できるなら」と付け足した。


負けず嫌いな性格じゃないはずなのに、その言葉に反応した。


きっと、レイさんなら――


「します……」


自分で指示しといて、また篤志さんは驚きの表情。


「妃奈、やめよ。らしくない」


彼が両手を挙げ、立ち上がる。


「あ、帰ってきたみたいだよ」


叔母さんらしき足音が、階段を上る。


「紅茶、ごちそうさまでした……」


ルビーのピアスを視界に入れないように、風呂敷を持ち、自分も立ち上がった。


「もし、気分でも悪いなら、明日は無理しなくていい」


「できるだけ早くお金返したいから、来ます」


背を向けて言うと、はぁ、とため息が聞こえてきた。


「嫌々来られても、って今更か。妃奈にはずいぶん、嫌われたもんな」


悲しそうだったり、落ち込んだような態度だったら、きっと苛立たなかった。


笑ってた彼に、私は言い放った。


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