摩天楼Devil
「妃奈!」と、篤志さんが助手席のドアに両手をつけた。


お兄さんは冷静に、傍のボタンが何かを押し、鍵を外す。


その音を聞き、私は飛び出し、篤志さんの胸に抱きついた。


私を抱きしめながら、彼は怒鳴る。


「……兄さん。いい加減にしろっ」


ただ、彼の胸に顔を埋めてたから、声と音だけ聞いてた。


「……相変わらず、目障りな男だ」

と、お兄さん。


そして、「まだ子どもだな……妃奈は」と続けた。


――私?


「キスに慣れてないみたいだ」


篤志さんがびくっと固まり、沈黙する。


「じゃあな、もうすぐ他人だ。仲良くしようぜ、弟よ」


ガチャ、とドアの閉まる音がして、走り去るエンジン音も聞いた。


――知られた。キスしたこと……


「……兄さんは、事務所と称して、このビルの一室を借りてるが、
実際はほとんど、女を連れ込むのに使ってる。父さんや母さんの目を盗んで、遊べるように」


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