摩天楼Devil
お兄さんに、近付くな、って警告してたのは?


「あ、あの……篤志さん……」


「――忘れろ」


そう言われた時は、何のことか分からなかった。


でも、身体を離した彼が指で、マスク越しの唇にそっと触れて、ハッとした。


「無理、です……」


泣きたくなった。

鮮明に、感触と気持ち悪さを思い出した。



私の心配をしながらも、彼自身すごく苦しげに咳き込む。


私は横になるよう頼んだ。


しばらくして、叔母さんがお粥を持ってきた。


食欲はないようだけど、薬は食後に飲むタイプだったので、軽めに食べもらった。


薬を飲んで、1時間ほどすると、寝息が聞こえてきた。


私は寝顔に浮かぶ汗を、起こさないよう静かに拭いた。


私は本を読んだり、勉強したりしながらも、傍にいた。


その間、汗を拭いたり、氷枕を変えたりもした。


外はすっかり暗くなり、


「送っていくから帰ろう」


と叔父さんに言われた。


< 178 / 316 >

この作品をシェア

pagetop