摩天楼Devil
「ごめんな……」


今まで見かけたのよりも、遥かに辛そうな目を向けてくる。


――風邪のことだけじゃない。


きっと……


生々しい、嫌悪する感触を唇や口内に蘇る。


――篤志さんがせっかく忠告してくれてたのに。


ある違和感が起こる。

あ、何か忘れて――


お兄さんのことで……


“もうすぐ他人だ”


そうだ。そう聞いた気がする。


無理矢理のキスと、それを篤志さんに知られてしまったこと、

何より、彼が倒れてそれどころじゃなくて――


父と息子の誓約って?
兄と弟が他人になるってどういうこと?


藤堂家で、何が起こってるの?


無意識に、篤志さんに向けて、手を伸ばしてた。


まだ辛そうな顔に、触れようと……


その前に、彼は握る。

指先に軽くくちづけをすると、布団の中に戻した。


見つめあった状態で、ママの声が割って入った。


「妃奈ぁ~。ミヤちゃんと真悠子ちゃんが、お見舞いにきてくれたわよ」


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