摩天楼Devil
兄ちゃんは、飛び立った。


暗闇の空に、たった一人。


理由も告げず、


ビルの屋上から――


神崎のおじさんこそ、死ぬんじゃないか、というくらい、蒼くなっていた。


なぜなら、兄ちゃんが選んだそのビルは、


神崎のおじさんが、これから売り出す予定だった、高級マンション。


俺は二度と、兄ちゃんの顔を見ることはなかった。


完全に潰れたという顔。


棺桶の中身を見る勇気はなかった。


悪夢は続く。


この頃になれば、内緒の息子 の意味は知ってた。


愛人の、いわゆる隠し子だった兄ちゃん。


いくら表にできなくても、息子を失い、絶望していると思われた、神崎のおじさんは、


信用を失い、傾きかけた会社を援助した父さんに、さらに頼み事をしていた。


その会話を聞いたのは、学校から帰宅したときだった。


リビングに入らないで、なんとなく妙な空気に、こっそりと盗み聞きしてしまったんだ。

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