摩天楼Devil
顎を掴まれたかと思えば、唇を塞がれた。


そして、その中で彼が私の舌を絡め取った。


キスの経験のない私はどうしていいか分からず、彼が止めてくれた時には、だらしなく、舌先を出していた。


藤堂さんの唇との距離が、まだ近い状態で、パシャ、と音がした。

え? と舌を引っ込め、横を見ると、携帯のカメラがこちらを向いていた。


藤堂さんは携帯を冷静に閉じて、パンツのポケットにしまった。


「な、な……ななっ」


唾液の流れた口元を吹きながら、彼を見ていると、先ほど叔父さんに向けたような、優しい笑顔を浮かべる。


今回は見とれるどころか、恐怖すら感じた。


「妃奈。バイト続けるよね?」


――続けられるわけないじゃん!
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