摩天楼Devil
現に、妃奈はバイトを続けた。


その間、何度かキスをした。


抱きしめたり、髪の毛を撫でたり、


彼女に触れるとき、密かに緊張した。



――妃奈。


俺こそ、初めてだった。


異性に触れる、


それで、こんなに心臓が反応するなんて……


それでいて、妃奈から背中に手をまわしてきたり、抱きついてくると、嬉しくて。


そりゃ、兄さんのことで泣かれたのは辛かった。


――あの男はさすがだ。


できるだけ隠したかったが、部下を使って、妃奈の存在を知り、


俺の本心を確かめた。


『なにやら、猫を飼いはじめたらしいが、“本気”か?』


受話器の奥で、愉快げに笑う。


“弟の本心”を知ったら、どう動くのか、予想がつく。


妃奈はロボットのおもちゃや、プラモデルではない。


「興味ない。父さんの友人の姪だから、相手してやってるだけだ」


わざと、“父さんの友人”を強調した。


それなら、さすがに妙な真似はしないと思った。


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