摩天楼Devil
目の前に、妃奈の寝顔がある。


兄さんに連れ去られた後、倒れた俺を看病した疲れからか。


おばさんの部屋に帰らないまま、眠ってしまったみたいだ。


しばらく、その寝顔を見てた。


ベッドに突っ伏して、寝息を立てる彼女の頬に静かに指を置いた。

プニッと、ちょっぴり柔らかい頬。


「……妃奈……」


と、起こさないよう小声で呟くが、おばさんらしき、サンダルの足音がして、慌てて起こした。


「ヒナ!」



時はすでに遅く、俺から彼女へ、菌はうつっていた。


お見舞いに行くと、彼女は辛そうな姿で、布団の中にいた。


その妃奈が、腕を伸ばして、なぜか逆に、心配するかのように、俺を見つめてきた。


冷えたらいけないと、俺はその腕を布団の中に戻した。


切なそうな瞳から、目を離せなかった。


もし、妃奈の友達が来なければ、できる立場じゃないのに、唇を奪ってたかもしれない。

すごく元気な女の子に、積極的に話しかけられた。


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