摩天楼Devil
逃げなくては――


彼女と話すことはない。


何より、俺自身が会ってはいけない。


再び背を向け、急いで玄関に向かおうとした、


が、「キャッ」と声がして、「大丈夫ですか?」と、紳士の声が続く。


ハッとして、また振り返ると、妃奈が階段の下で座り込んでる。


よく見ると、電線してしまったストッキングを恥ずかしそうに隠そうとしてる。


その部分からは血が。

こけ落ちたらしい。


「妃奈!」


思ったよりも声が出た。


紳士は俺が近付くと、何を勘違いしたのか、

「よかった。お一人じゃないんですね」

と、去ってしまった。


妃奈はハンカチを出し、自分で傷を押さえてた。


俺はそっと、肩を抱き寄せ、「立てる?」と訊き、支えながら、立たせた。


すぐに後悔することになる。


なぜなら、妃奈がそのまま、俺の胸に飛び付くように、しがみついてきた。


以前の、兄さんに連れ去られたときのように――


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