摩天楼Devil
今は、あの時のように、抱きしめることは許されない。


こちらの気も知らずに、女の子は背中に回す腕に、キュッと力を入れる。


「……やっと、会えた……」


涙声でそう呟く。


「妃奈……」


離れろ。


そう怒るはずだった。

だってそうだろう?


突き離さなきゃいけない。


こんなとこ、兄さんやマスコミ、神崎のおじさんに見られたら……

早く、言え。離れろ、と。


「篤志さん……辛そう……無理しないで……」


「な、なんのことだ?」


怒らなくても、妃奈は一旦離れた。


そして、頬に触れてきた。


「顔色も良くないし、表情も辛そうだった。特に、会見のとき……」


何を言ってる?

俺はできるだけ笑顔を保ち、時には真剣な顔で、応対していた。


そんな感情など、表に出さないように……


神崎のおじさんも、木島さんも、誰も何も言わなかった。


――気付かなかったのに……!


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