摩天楼Devil
彼女はまた、キャ、と小さな悲鳴を上げた。

かなり、小さく――。


そんなに驚かなかったようだ。


当たり前みたいに、

抱き締められてる。


そう、当たり前みたいに――


俺が急に抱き締めたのに、妃奈はすぐに安心したような表情で、また背中に腕を回す。


ここがどこだろうと、関係なかった。


初めて出会ったときみたいに、唇を奪いたかった。


そして――


周囲のことなんかお構いなく、その手を取って逃げる。


もう、妃奈の気持ちも無視して、どこか知らない地に連れていく。

もしも、邪魔が入らなければ、きっと実行してた。


キスをしようとした寸前に、「妃奈ぁ」と、彼女を呼ぶ声がして、慌てて離れた。


「あれ?そこにいたのか?どうした?」


スーツの若者は、何も見てなかったようで、ただ普通に下りてくる。


篠山駿だ。


「神崎……いや、まだ藤堂でいいのかな。藤堂篤志さんじゃないすか?もしかして、知り合い?」


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