摩天楼Devil
「……ああ、そう……」


それから、車内の空気は重苦しいものに変わった。


木島さんは本当に、“彼”を知らないのか?

やはり、気になってた。


どうにか、問いただそうかとしたときだ。


何となく視線をやった窓の外。


あるブランドのショップのウィンドウに、

女の子がかじりついてた。


“俺達”の思い出の店。


今まで黙ってた木島さんが言った。


「以前、この辺りで停車するよう言われましたね。あの時、初めてあなた様の表情を窺えました」


「は?」


「能面みたいでしたよ。無表情で。

時折、張り付いたような笑みを作ったりされてましたが……先ほどの記者会見の時のように、ね」


「き、しま……さん?」


困惑する俺に、彼は更に言う。


「何か、宝物を発見したかのような、目が輝いてましたよ。
“彼女”なんでしょう。桜田妃奈様」


「やめてくれ」と、今度は俺が言う。


が、木島さんは聞かなかった。


< 247 / 316 >

この作品をシェア

pagetop