摩天楼Devil
「大切なものを失った男性の顔というのは、皆“同じ”なんですね。世の中を分かった気でいらっしゃる」


「どういう意味だ」


「そういう意味です。

欲しい物を満足に手に入れられる人間は、そう多くないのに、自分だけが不幸だと思い込む。

世間を舐めていらっしゃる。

そして、立ち向かおうとしない。まだまだ、戦えるくせに、これまた自分は不幸だ、仕方ない、どうしようもない、なら諦めてしまおう、と。

まったく甘えん坊なんですね」


彼は淡々と語る。

なのに、その言葉はズシッとのしかかる。


「……不快だ。ここで降ろしてくれ。どうせ、雑誌の取材とかなんだろ。自分の足で行く」


木島さんは反論もせず、素直に車を止めた。

俺はいつかのように、あの店まで戻る。


ただ、あの時と違い、力なく歩く。


走る気力なんかなかった。


あの時は早く確認したかったんだ。


彼女を――


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