摩天楼Devil
《こっちに来いよ》


闇から声がした。


「え?」


《こっちは自由だぜ》


長身の男が、目の前に現れる。


「自由……?そうだ。訊いてみたかったんだ。なぁ、なんで死んだんだ?」


彼は答えない。


《こっちに来ればいい》


そしたら、教えてやるってか?


くっくっ、と小さく笑い、俺は彼に手を伸ばす。


その幻は消え、代わりに携帯電話の音がした。


「ん……なんだ……寝てたのか?」


ぼーっとする頭を振り、携帯に出る。


『もうすぐ夏休みですね。社長がその間のご予定を話したいそうです』


木島さんは何事もなかったかのように話す。

俺も、「分かりました」と大人しく答えた。


夏休み、ね。


大学生の夏休みなんて、まさに自由なもんだよな。


本来は……



――コッチハ、ジユウダゼ――


「え?」


起きているはずなのに、

夢の中ではないのに、

闇の中ではなく、明るいのに、


確かに声がした。


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