摩天楼Devil
『許嫁は許嫁だろ?』


なぜか一番に、篠山駿を思い出した。


嫉妬という醜い感情と、苦痛が胸を締め付ける。



――欲しい物を満足に手に入れられる人間は、そう多くないのに……


――まったく甘えん坊なんですね


「うるさい。バカバカしい。この俺が……女ごときに……」



『大切なものを失った男性の顔というのは、皆“同じ”なんですね』


この木島さんの言葉を思い出すと、ハッとした。


「……兄ちゃん?……」


まさか、兄ちゃんも?

まさかな。はっきり言って、女に困らないような容姿だったし……


「はっ、くだらない」


くだらない、そう思うのに……


まだ、幻が見える。


長身の男性が、誘ってくる。


《こっちは自由だ。来いよ》


――コイヨ――


「そうだな。話してみたかったんだ……あんたと……」


俺は、彼も越えただろう、柵に手を付いた。



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