摩天楼Devil
「篤志さんが好きでした。楽しかったです。ありがとうございました!」


さようなら――


今度こそ、ふっきるために、わざと部活の先輩後輩みたいな、爽やかな口調で言った。


「妃奈!」と、婚約者が呼びながら、通路を走ってくる。


私も、前に歩きだした。


――1歩だけ。


それ以上、進めない。


あれ? と思い、シュンちゃんの方を見ると、彼は怖い顔をしてた。


それもそのはず、篤志さんの腕が背後から、抱きとめてる。


首の下にある、彼の腕にそっと触れ、なんとなく顔を横に向けると、


「う、んんッ……?」


何度か味わった、柔らかい感触が唇を塞ぐ。

あまりに急だったから、目を開けたまま。


そちらは見れないが、明らかに前方から、怒気を感じた。


シュンちゃんがいるのに……!


篤志さんの腕を、訴えるかのように軽く叩くが、それを合図にするように、彼は侵入してきた。


「――ふっ、え……」


さすがに目を瞑った。

恥ずかしくて……


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