摩天楼Devil
篤志さんはにっこり微笑む。


久しぶりに見た顔で、ついついみとれてしまった。


もちろん、シュンちゃんは違う。

より、イライラしてる。


「所詮“ママ達”の勝手な約束なのに、惚れた女を手に入れた気でいる。これ、単純。

俺がわざわざ教えてやるまで、その女の気持ちに気づかなかった。これ、鈍感」


――教えた……?


「ああ、そうだよ!あんたが教えてくれたんだよなぁ!……俺に返す、って」


「か、えす……?」と、呟きながら、篤志さんの顔を覗き込んだ。

すると、彼はちょっと困ったような表情をした。


「そう、返す。そのつもりで、今日も呼んだ」


――何、それ……


私って、“物”のような、その程度の存在だったの?


苦しくて、悔しくて、泣きそうでうつむいた。


二人の男性は、まったく気にもせず、会話を続ける。


「返してもらう……妃奈、帰るぜ。来い」


シュンちゃんは、手を私の方に向ける。


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