摩天楼Devil
「……ん」と、小さく頷き、行こうとした。

が、ふわり、と歩くはずの両足が浮く。


「あれ?」と思ったときには、横にいた男性に抱きつく体勢になってた。


足はその彼の腕に乗ってる。


早い話が、再びお姫様だっこ。


「……気が変わった」と、堂々と言い放つ篤志さん。


「変わった?」


シュンちゃんは手を差し出したまま、固まってる。


「ああ。妃奈は俺のもんだ」


「……へ……ぇ?」


と、私はマヌケな声を出した。


「冗談じゃねぇ。こっちは婚約してんだ!ほら、妃奈!さっさと、下りてこい!」


どうしていいか分からずに、篤志さんの顔を見た。


「……そうだな。君が決めればいい」


「決める?」


「そう……。彼と帰るか」


篤志さんはちらっとシュンちゃんを見た。


それから、ちょっと間を置き、私の耳元で囁いた。


「――俺と来るか」


その声は艶やかで、ドキン、とした。


「妃奈!」と、シュンちゃんが呼ぶと、篤志さんは私を下ろした。

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