摩天楼Devil
ママに嘘吐いちゃった。


男の人といる……


ろくに恋愛経験がない私は、ドラマやマンガで、こんなシーンを見た。


嘘吐いて、友達にアリバイまで頼んで、


男の人と一晩を過ごす、って――


「やっぱり、“そういうこと”なのかな……?」


篤志さんが望んでることは、ただご飯食べて、DVDを鑑賞することじゃないの……?


ほんと一時だけ、なぜか冷静になり、

普段通りに服を脱いだ。


――自信ない……


いろんな意味で。


恐怖というより、今までとは違う種類の不安を感じた。


レイさんとは、正反対のタイプの自分……


まったく魅力的じゃない自分……


湯船から、フローラル系の香りがして、

こんな心情だからこそ、誘われるように浸かった。


ピンク色のお湯に、顔を沈めた。


――どうしよう? どうしよう?


外に出れば、男性がいて、私はバスローブで――


好きなのに、好きでしょうがなくて追いかけた人なのに……


「やだ……帰りたい……」


経験したことのない世界に、飛び込まなければいけない。


そんな気分だった。


「ふぇ……泣けてきた……」


涙腺が緩む。


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