摩天楼Devil
このままいても、のぼせるだけ。


ここで倒れても、余計な恥をかくだけだと思い、脱衣所に戻った。

でも、着たのは、制服だった。


参考書を忘れて、学校に行ったために着た、制服。


だけど、私服でもこの心情は穏やかにはならなかったはずだ。


バスローブをやめても、帰りたい気持ちに変わりはない。


篤志さんはどういうつもりなんだろう?


今頃、そんな風に思う。


シュンちゃんに、渡せない、と言ってくれた。


けど、気持ちをはっきり聞いたわけじゃない。


お兄さんに襲われたことも思い出した。


膝が震える。


――もう、やだ……


恐る恐る廊下に出ると、玄関へ逃げそうになった。


でも、叶わなかった。

「妃奈。おいで」と、奥から声をかけられた。


ビクン、と反応しながら、言われるがまま、リビングへ赴いた。


彼は、ソファーに座っていて、手招きをする。


恐怖心を抑え込み、覚悟を決めた。


が、それは取り越し苦労に終わった。


「……へ?」


「へ? じゃない。カーテンの前に立ってごらん」


と、篤志さんは目の前の、カーテンの閉まった窓を指差す。


「はぁ……」


< 291 / 316 >

この作品をシェア

pagetop